IR・PTの基礎知識(1)社会的背景
インストラクター・パーソナルトレーナーとして必要な基礎知識をまとめてみます。
[1]社会的背景
(1)運動不足
「運動不足」という言葉は様々な場面で使われる。「最近は運動不足で、体が重くなった」「今の子供は、家でゲームをしていて運動不足だ」「運動不足解消のため、ランニングブームだ」など。運動が不足することによる「運動能力・体力の低下」や「体重の増加、健康の喪失」などの意味合いで使われることが多い。
一つ興味深い指摘は、鍋倉賢治(筑波大学大学院人間総合科学研究科)准教授の言う、「高齢者の低体力や介護問題は早急な対策が望まれますが、子どもや青少年の体力低下は、将来の低体力高齢者の蔓延を予見させ、日本の将来は明るくありません。(中略)今の青少年は、今の高齢者の青少年期(数十年前)に比べはるかに運動不足であるのは明らかで、数十年後は、極めて低体力な高齢者が多い、超高齢化社会になる可能性は高い」である。
すなわち、「個々人の差異はあるものの国民全体として、世代が新しくなるにつれて運動不足である傾向が強い。したがって将来はますます体力が低下した成人~高齢者が急増するだろう」ことへの警告だ。
http://www.jognote.com/column/stepup/back/2008-06-11.htmlでは、次の図とともに筑波大学生の体力低下を示し、便利な生活を送れる現代における体力低下への懸念を訴えている。

運動不足によりエネルギーの消費量が減るのは、燃費として考えれば(人類も太古の昔は飢餓が続く時代であったため)良いことのように思える。
しかしながら、エネルギー消費量が減れば必要とされる酸素も少なくなり、身体中を循環している血液量も減少することになる。運動で使われる筋肉などは使わないのだから血流量が減っても問題は少ないが、循環器・消化器などの他の臓器はその割には減少しないため、酸素が充分に供給されなくなれば当然ながら能力が低下し、ひいては臓器自体が劣化(老化が進行)する。さらには環境への適応能力も下がり、身体が本来持っている防衛力・免疫力も低下することになってしまう。生理機能は使われなくなれば能力が低下する(万が一ひどければ退化)ため、身体を使わないことが却って身体を疲れやすい状況に追い込んでしまうことになる。
(2)肥満者の増加
肥満者(一般的にはBMI>25 *BMIは後述)の増加を示す、厚生労働省の報告(厚生労働省『国民健康・栄養調査』平成19年)がある。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/seikatu/himan/number.htmlでは、「男性の場合は、どの世代でも10年前・20年前よりぐんと肥満者の割合が増えています。とくに40代から60代の肥満者は30%を超えています。女性では、30~60歳代において肥満者の割合が20年前・10年前と比べて減少しており、また20~40歳代においては低体重(やせ)が増加傾向になっています」と述べられ、次の図が掲載されている。

肥満については、(1)摂取エネルギーの過多によるもの、(2)消費エネルギーの過少によるもの、(3)その他に分けられるだろう。
(1)摂取エネルギーの過多においては、もちろん飽食の時代にて24時間いつでも食べ物が用意できるようになった上に、欧米化による高脂肪化食の増加を指摘する人が少なくない。
また(2)消費エネルギーの過少については、運動不足はもちろん、その背景として生活の利便性が向上したことを挙げる人が多い。
(3)その他については、昼夜逆転の生活にて体内時計~ホルモンバランス、さらには食事時間の不一定による血糖の乱高下や消化能力の低下が指摘される。
[2]政策としての健康増進
(1)『健康日本21』
『健康日本21』と通称されるのは「21世紀における国民健康づくり運動」であり、平成12(2000)年に厚生省(当時)により始められた第三次国民健康づくり運動を表す。生活習慣病の予防を目的とし、その原因となる生活習慣を改善する運動である。
改善する生活習慣は、九つの分野に及ぶ。1食生活・栄養、2身体活動・運動、3休養・心の健康づくり、4タバコ、5アルコール、6歯の健康、7糖尿病、8循環器病、9がんで、平成22(2010)年をめどとする具体的な数値目標を設定し1本人、2専門家等、3保健所等の連携を求めている。
(2)『健康増進法』
『健康増進法』(平成14年8月2日制定:法律第103号)とは、従来の「栄養改善法」(廃止)に代わるものであるが、「現代病予防のために、1国民に健康維持の義務を課し、2自治体や医療機関などに協力義務を定めている」点が特徴である。この法律に基づく施策として新しいのは、次の三点である。
1、介護予防健診:平成18年度~:65歳以上を対象、市町村の新しい義務として「特定高齢者把握事業」を行い、国の基準に該当する者に「介護予防事業」を行うことが定められた。
2、特定健診事業:平成20年度~:65歳未満の国民を対象とする。腹囲が基準値を超え、血液検査に異常値を持つ者を「メタボリックシンドローム(該当者ないし予備群)」として選び出し、その者に「特定保健指導」を行うことを健康保険者(健康保険を運用する組合・団体など)に義務づけている。
3、受動喫煙の防止:多数の者が利用する施設の管理者に対して受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう求めた。それにより「建物内の禁煙、分煙」といったルールが加速的に進んだ。
(3)メタボリックシンドローム
『健康増進法』に基づく施策の一つで「特定健診(事業)」がある(前述)が、国民の健康づくりのために肥満の改善さらには予防を推進しようとする意図である。また高齢化社会の現代において飛躍的に増大する医療費を軽減させるには、未病の抑制(病気前段階での進行抑止)が得策であるとの政策判断であるとも言える。
肥満度合いを数値化させ、かつ義務的保健指導を受けさせる基準値として、次の2段階が決められた。
1、腹部周囲径(いわゆるウエスト):{男性が85cm以上、女性が90cm以上}
の場合に次の判定に移る(未満であればメタボリックシンドロームに該当しないと判断される)
2、血液検査における異常基準値:以下のいずれか2項目に当てはまると「該当」と判断される
*中性脂肪が150mg/dl以上
*HDL(いわゆる善玉コレステロール)が40mg/dl未満
*血圧が130/85mmHg以上
*空腹時血糖が110mg/dl以上
*HbA1c(ヘモグロビンエイワンシー)が5.5%以上
この基準については異論が様々に出されたが、現在は上記の基準値が採用されている。
[3]主な疾病・生活習慣病
(1)日本の三大死因
高度経済成長期には、「脳卒中・がん・心臓病」が三大死因と言われた。中年以降に死亡率が急激に高くなり、またこれら疾病による死亡がかなりの割合に及んでいたからであった。ゆえにこれらの疾病は「成人病」とも言われていた。

現在の十大死因は、「1、悪性新生物(がん)30.4%」「2、心疾患(心臓病)16.0%」「3、脳血管疾患(脳卒中)11.8%」※三大死因で50%超、順位に変動はあるが昔から変わっていない
以下、「4、肺炎9.9%」「5、不慮の事故3.5%」「6、自殺2.8%」 「7、老衰2.6%」「8、腎不全(腎臓機能障害)2.0%」「9、肝疾患(肝臓機能障害)1.5%」「10、慢性閉塞性肺疾患1.3%」である。
(2)成人病と生活習慣病
成人病と言われていた当時、三大死因「脳卒中・がん・心臓病」は『加齢が主因』との認識があり、早期発見が予防の大原則であるとの考え方で『集団検診』が重要視されていた。働き盛りの成人~会社員に対して、職場ぐるみでの集団健康診断が実施されるべく態勢が整備された。
ところが子供に糖尿病が出現するなど、成人病と表現されていた疾病は実は『(宜しくない・長年の)生活習慣が主因』であるとの認識に変わり始め、【成人病】との言い方から【生活習慣病】との表現に変移することとなった。{ただし成人病は加齢による疾病の区分、生活習慣病は生活習慣による疾病の区分であり、両者間で重複する疾病も多いものの、あくまで別個の概念である・・・厚生省(当時)の指摘}
循環器の疾患(特に三大死因でもある心疾患・脳血管疾患)の下地になる病気としては、【高血圧・動脈硬化】【糖尿病】【脂質異常症】(以前は高脂血症と呼ばれ、総コレステロールよりもLDLが多いことが問題視されるが、一方で低HDLの疾患も増加しているため総称が改められた)【高尿酸血症】(いわゆる痛風)が挙げられ、また【喫煙】と【肥満】が危険因子である。時代の要請なのかそうした経緯で前述:『健康日本21』→『健康増進法』に繋がることとなった。つまり生活習慣の改善を図ることで国民の健康を高めようと云う訳である。
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